天才料理人

 僕はホットケーキを焼くのが下手だ。名古屋県出身だから、喫茶店に通う比率が高いのは特に京都に来てから実感するけれど、喫茶店でホットケーキを頼んだことは無いと思うし、実家で母が焼いてくれたこともほとんど無いと思う。

 ただ、なんかたまにどうしても食べたくなることがあって、下宿を始めてから何度かスーパーでホットケーキミックスを買ったことがある。
 人生で一番幸せなときは何時?と聞かれたら、僕は間違いなく料理のモチベーションが高いときに何を作るか決めないままスーパーに入ったときがそれなんだけど、今ではそんな僕も失敗を繰り返した結果、ホットケーキミックスだけは買わなくなった。

 ホットケーキが上手く作れないと言ってもいまいち分からん人も居ると思う。僕が作るホットケーキは恐ろしく水分を吸うことに飢えていて、まるでマインクラフトのスポンジブロックのように僕の口中を砂漠バイオームに変えてしまう。かなしいおもいでしか無かったが、最近ふとした機会にホットケーキが作れない男を卒業しようと再度挑戦してみようと思った。

 結論からして僕の失敗は膨張率を甘く見て一度に焼きすぎることが原因だったと分かった。ココア粉末を混ぜてみたり工夫を加える余地も出来たが、結局まあこんなもんかというラインを越えることは出来なかった。ホットケーキがまあまあ作れる男の誕生である。

 小さい頃珍しく母がホットケーキを作ってくれた時、焼く前のペーストを味見したときにその美味しさに感動し、何故これを焼くのかと疑問に思ったのだが、一人暮らしの下宿で誰も咎める人は居ないはずなのに、律儀に焼いてしまうのは何故だろう?それでも、少し残った余りを焼かずに食べたときは、小さな頃の事を思い出して懐かしい気持ちになるのだが。