抗生物質の獣

 寒い。
 12月になってからはわりかし元気にやれるようになったが、10月、11月は体調を崩しがちで、良く大学を休んだ。
 というのも、きっかけは何処で拾ったのか分からんような風邪が何時までも完治せず、小康状態と悪化をかれこれ3週間近く繰り返した。病院に通うのを良しとしない家庭で育ったために診察を受けるのが遅くなったが、結局のところ気管支炎だった。

 前述した通り僕は症状の早いうちに病院に行くという考えがなく、もっとも辛いタイミングは一人暮らしの常として布団から出られないため、必然的に治りかけてから「こういう症状でした」という報告をするために病院に向かうことが多い。
 医者はそうかそうかと症状に併せて1週間分、2週間分の薬を出してくれるが、何分ほぼほぼ快復に向かっているために1日か2日飲んでおわりにしてしまう。そんなわけで、僕は今まで処方された薬を飲みきった経験がなかった。
 それもまた僕が病院から足を遠ざける理由の一つとなっていたのだが完治しきらず症状を繰り返した結果、人生で初めて病院で処方された薬を全て飲みきる結果となった。個人的な感想としてはこれは大きな快挙であり、しかしこの感動と衝撃を筆者の方に共感してもらうのが困難なのは想像に難くない。

 それはそうとして、寝て起きる生活を2、3日も続けていると生活リズムが大きく崩れてくる。体調が落ち着いているときは大学に顔を出したり(その結果再び悪化するのだが)飲み物を補充しに外出したりしたが、その多くは夜か早朝であり、また12月に入ってしばらく極端に早く起床する日々があったために、これまで3年過ごして尚見たことの無かった町の景観を目の当たりとすることとなった。
 ベッドタウンであるために深夜早朝は静かなものであるとばかり思い込んでいたが、それは想像していた以上に静かで、しかし一方で思いがけないほど雑踏に溢れていた。これまで廃屋か何かだと思っていた古い居酒屋に明かりが灯り、声が漏れだし高齢者と中年の男女が電柱の下でなにやら話し込む様はとても夜中3時とは思えぬものである。終電も無くなり閉じることのなくなった踏切から眺めるその景色は、冬の風の冷たさも相まって、まるで自分が初めて訪れる街並みのようであった。
 無性に嬉しくなった僕は、しかし4月にはもう離れるであろう街並みが急に惜しくなった。自分はこれほどに住んでいる街を知らなかったのか。しばしば夜中に外出するようになったことが、何時までも体調が完治しなかった理由の一つであることは否定出来ないが、今更この街に親近感を持てたように思う。

 そういえば歩いてて見つけたのだが、最近新しいスーパーマーケットが近くに出来た。家の周りには4件のスーパーがあったが、そのうちの一つに隣接させる強気な経営戦術であった。
 これは後からネットで知ったが、その新しい店舗に対抗するために近隣の店舗が営業時間を延ばしたようだ。価格競争も激しいのか、今までまるで見たことのなかったチラシも入るようになった。
 お金の消費は少し激しくなったが、おかげで最近、買い物と自炊がとても楽しい。